レジリエンスとは?エンジニアに重要な理由、高める方法を解説
目次[非表示]
- 1.レジリエンスとは?
- 1.1.言葉の意味と由来
- 1.2.各分野におけるレジリエンスの定義
- 2.レジリエンスはエンジニアに重要な力
- 2.1.コミュニケーションでストレスが発生しやすい
- 2.2.成果が認められにくい場合もある
- 2.3.メンタルに問題を抱えるエンジニアは多い
- 3.現代社会にレジリエンスが求められる理由
- 3.1.社会全体における不確実性の高まり
- 3.2.自己肯定感の低い人材の増加
- 3.3.ストレスを減らすだけでは不十分な場合も
- 4.レジリエントな人の特徴
- 4.1.「ハーディネス」の特性を持っている
- 4.2.レジリエンスの高い人が持つスキル
- 5.社員のレジリエンスを高めるメリット
- 5.1.ストレス耐性がつく
- 5.2.逆境に強くなる
- 5.3.変化にうまく対応できるようになる
- 6.レジリエンスを向上させるには
- 6.1.自己肯定感と楽観性を高める
- 6.2.対人スキルを向上させる
- 6.3.組織として個人のレジリエンスを考える
- 6.4.レジリエンス研修を実施する
- 7.組織全体のレジリエンスを高めよう
近年、エンジニアの世界でも「レジリエンス」の概念が注目されるようになってきました。心理学や生態学だけではなく、ビジネスシーンでもよく使われるレジリエンスの概要とメリット、エンジニアのレジリエンスを高めるための方法を解説します。
レジリエンスとは?
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「レジリエンス」はもともと物理学の用語ですが、生態学や心理学・ビジネスシーンでもよく使われるようになりました。まずは言葉の意味や、各分野でレジリエンスが何を表すのか押さえておきましょう。
言葉の意味と由来
レジリエンス(resilience)とは、本来「反発性」や「弾力性」を意味する物理学用語です。外的な衝撃(ストレス)があっても、自身の機能や構造を失わない力(働き)を指します。 この概念は生態学や心理学をはじめ、さまざまな研究分野で使われるようになりました。現在は一般的なビジネスシーンや、看護分野でも広がりを見せている状況です。
特に、ビジネスシーンではストレスに負けず、しなやかに立ち直るためのメンタルを指します。社員のレジリエンスを高めることが、企業の業績を上げるためにも重要になってくるでしょう。
各分野におけるレジリエンスの定義
物理学用語として使われ始めたレジリエンスの概念は、生態学と心理学を中心として、他分野に広がってきました。 生態学におけるレジリエンスとは、外部からの衝撃や予期せぬ出来事などの影響に耐え、ダメージを受けた場合でも自ら再構築する能力です。
一方、心理学におけるレジリエンスは、明確な定義が定められていません。もともと心理学は、逆境が人間の心理にどのような影響を及ぼすのかといったマイナス面の研究が主でした。 しかし、逆境にあっても問題行動を起こさない人・成長し続けられる人の特徴を研究する中で、ビジネスシーンでもレジリエンスの高さが重要だと明らかになりつつあります。 過度なストレスに屈することなく心理的に回復し、さらに成長できるのが「レジリエンスが高い」「レジリエントな」と呼ばれる人です。
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レジリエンスはエンジニアに重要な力
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レジリエンスは、ITエンジニアにとっても重要な力といえるでしょう。エンジニアは仕事でストレスを受けやすいといわれる職種です。抱えるストレスや現状を把握すると、エンジニアにレジリエンスが必要な理由が見えてきます。
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コミュニケーションでストレスが発生しやすい
エンジニアは日常的に専門用語や、エンジニア同士で共有されているコンテクスト(文脈)を用いて、業務に関するコミュニケーションを取る場合が多いでしょう。 同じレベルのエンジニア同士なら、大きな問題は起こらないかもしれません。
しかし、エンジニア以外のビジネスパーソンや知識・技術のレベルの違うエンジニアとコミュニケーションを取るときは、会話に食い違いが発生しやすくなります。 異なる背景を持つ人とのやり取りに行き違いが生じることで、エンジニアは強いストレスを感じてしまうのです。
特に、クライアントが専門技術に精通していないと、多くの言葉を尽くさなければ意図が伝わらないケースも珍しくありません。 コミュニケーションロスによって、後からトラブルに発展する場合もあるでしょう。たとえ話がかみ合わずストレスがたまる状況でも、エンジニアは相手に自分の意図を理解してもらう必要があります。
成果が認められにくい場合もある
エンジニアは、一般的なビジネスパーソンからすると「特殊な技能を持った専門家」と見なされています。その上、開発されたシステムは正常に起動して当たり前だと思われがちです。
どれほど裏でエンジニアが苦労していても、なかなか成果を認められにくい場面が出てきます。苦労がなかなか認められず、褒められる機会も少ない点をストレスに感じているエンジニアは少なくありません。
さらに、システム開発において正解は一つではないため、常に試行錯誤を求められます。高いレベルでアウトプットをし続けなければならないプレッシャーを感じているエンジニアも、多くいるのが現状です。
メンタルに問題を抱えるエンジニアは多い
コミュニケーションロスの問題や、常に結果を求められるストレスなどによって、メンタルの不調を訴えるエンジニアは増えています。 特に、性格的に真面目で責任感の強いエンジニアがメンタルに不調をきたす傾向があり、企業側もエンジニアのメンタルヘルスに積極的に取り組むようになってきました。
しかし、深刻な問題が起こってから対処するのでは、本質的な解決にはつながりません。そこで、労働時間や組織体制の見直しを進めるとともに、エンジニアの精神的なレジリエンスを高める施策にも注目が集まるようになったのです。
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現代社会にレジリエンスが求められる理由
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ハードワークになりがちなエンジニアはもちろん、一般的なビジネスパーソンにもレジリエンスの向上が求められています。多くの業界でレジリエンスの強化が必要とされているのには、どのような背景があるのでしょうか?
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社会全体における不確実性の高まり
近年は、「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる、予測のできない時代といわれています。VUCAとは次の単語の頭文字を取った造語です。
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
世界中で災害や異常気象が発生したり、新たなウイルスによって外出が規制されたりと、現代では予測できない現象が多く起こっています。あらゆる面で、先行きの見えない時代になりました。 簡単には答えを導き出せず、不安定な状態に耐えなければならない状況に陥っている人が多くいます。メンタルに不調を抱える人も増加しているのが現状です。 不安定な状況で生きていくために、個人はもちろん組織全体でレジリエンスを高める努力が求められます。
自己肯定感の低い人材の増加
社会の不確実性に加えて、自己肯定感の低い人が増えたことも、レジリエンス強化が叫ばれている要因の一つといえるでしょう。 自己肯定感とは「自らのありのままの姿を肯定する感覚」で、メンタルの安定には欠かせない要素です。 日本人は他国に比べて自己肯定感の低い人が多いといわれており、エンジニアの中にも自分を肯定できずに悩んでいる人材が少なくありません。
内閣府の調査によれば、日本の若者は諸外国の若者に比べて自身を肯定的に捉える人の割合が低い傾向にあるようです。 自己肯定感の低さが仕事のパフォーマンスにも影響を与えている可能性があるため、メンタル面におけるレジリエンスの向上が必要とされています。
参考:特集1 日本の若者意識の現状~国際比較からみえてくるもの~|令和元年版子供・若者白書(概要版) - 内閣府
ストレスを減らすだけでは不十分な場合も
単にストレスを減らすだけの施策では、メンタルの問題を解消するには不十分という認識が広まっているのも、レジリエンスが注目されている要因です。 従来、メンタルヘルスは疲弊した心の状態をいかにケアするか、といった視点から施策が打ち出されるケースがほとんどでした。
しかし、それだけでは状況は改善しないのが実態です。 外部からの刺激やストレスに対して、すぐにメンタルに不調をきたしてしまう人も増えています。不調になったメンタルのケアだけでは、本質的な問題の解決にはつながりません。 そこで、不安や心的なプレッシャーを減らしたり避けたりするだけでなく、いかにストレス要因に向き合って状況を改善するかが注目されるようになりました。一人一人にレジリエンスを向上させる取り組みが必要なのです。
外部からのストレスを完全になくすのは不可能でしょう。不安や精神的なプレッシャーに負けないメンタルを作るにはどうすればよいか、という視点が注目されるようになっています。
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レジリエントな人の特徴
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メンタルのレジリエンスが高い人(レジリエントな人)は、どのような特徴を持っているのでしょうか? レジリエントな人の特徴を把握すれば、エンジニアのレジリエンスを高めるヒントを得られるはずです。
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「ハーディネス」の特性を持っている
人間のメンタルのレジリエンスに関する研究の中で、ストレスに強い人は「ハーディネス(hardiness)」の特性を持っていると明らかになってきました。 ハーディネスとは、「頑丈な」「強い」「頑健な」といった意味の英語です。ストレスがかかっている状況でも、負けずにメンタルの状態を維持できる力を指します。
ハーディネスを持っていれば、過度なストレス下にあっても生き残ることが可能です。ビジネスにおける成功にも必要な要素と考えられており、次の三つの要素から成ります。
- コミットメント(commitment):困難な状況に陥っても周囲と関わりを持ち続け、状況に正面から向き合おうとする姿勢
- コントロール(control):状況に屈して諦めることなく、自分自身の力で状況を改善できると信じること。問題を解決するためにアプローチし続ける姿勢
- チャレンジ(challenge):自らの状況を嘆くのではなく、そこから成長する方法を見つけ出そうと努力する姿勢
これら「三つのC」がハーディネスを形成しており、メンタルのレジリエンスが高い人の特徴といわれています。
レジリエンスの高い人が持つスキル
上記の特性に加えて、レジリエンスの高い人は次の二つのスキルも持っているといわれています。
- 問題解決スキル
- コミュニケーションスキル
問題解決スキルは、視野を広く持って状況を正しく認識し、問題の構造を捉えて解決策を打ち出すためのスキルを指します。 問題解決スキルの高い人は、凝り固まった考え方や価値観に縛られません。なぜその問題が生まれているのか、本質的な課題は何かを客観的に理解できます。視野を広げて得た情報を基にして、問題解決のための計画を立てられるのが特徴です。
コミュニケーションスキルは、自らと他者(あるいは他者同士)の間に起こる問題を認識し、解決のために適切なコミュニケーションを取るためのスキルです。 コミュニケーションスキルが高い人は他者の話をよく聞き、うまく支え合いながら問題を解決できます。 問題解決スキルやコミュニケーション能力は、どちらも後天的に伸ばせる要素です。ハーディネスの特性と一緒に磨くことにより、困難な状況でもストレスに屈せず適切な行動を取れるようになります。
自社のエンジニアにレジリエンスを高めてほしいなら、グループワークや研修などを通じて積極的にコミュニケーションスキルを磨いていきましょう。
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社員のレジリエンスを高めるメリット
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エンジニアはもちろん、一般職の社員もメンタル面のレジリエンスを高めることで、さまざまなメリットを享受できます。社員のレジリエンスを高めるメリットについて、掘り下げて理解しておきましょう。
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ストレス耐性がつく
レジリエンスを高めれば、過度なストレスがかかる状況でも、メンタルを維持して適切な行動が取れるようになります。 仕事をする上で、適度なストレスはむしろプラスになる要素です。
しかし、過度なストレスはパフォーマンスを低下させてしまいます。 メンタルのレジリエンスを高める取り組みをすることで、困難な状況でも行動し続けられる社員を育成できるでしょう。 特に、エンジニアは過度なストレスにさらされやすい職種です。レジリエンスの強化は組織全体の生産性を向上させます。
逆境に強くなる
ビジネスを続けていると、必ず何らかの逆境にさらされることになります。どれほど順風満帆な状況でも、わずかなきっかけで問題やトラブルが発生するケースは珍しくありません。 そこで対応を誤ってしまうと、ますます深刻な事態になってしまう可能性もあります。
社員のレジリエンスを高めておけば、逆境に置かれても状況を冷静に判断し、適切な対応を取れるようになるでしょう。難しい状況で落ち着いて対応できる社員が増えれば、職場の雰囲気が悪くなるのも防げます。
変化にうまく対応できるようになる
現代社会は不確実性が高く、社会を取り巻く状況も目まぐるしく変化しています。とりわけビジネスの世界では、IT技術の普及や進化によって、過去の成功体験が必ずしも通じるとは限らなくなってきました。 未来を予測しにくい時代では、過去にとらわれず状況を慎重に調査・判断し、適切な行動を取れる人材が企業の発展に貢献するでしょう。
変化にうまく対応するには、変化の激しい状況でも回復できるレジリエンスが必要です。 レジリエンスを高めれば、社員一人一人の行動が最適化されるだけでなく、柔軟性が高く変化に強い組織を作り上げられます。
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レジリエンスを向上させるには
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エンジニアをはじめとした企業人材のレジリエンスを高めるには、具体的にどうすればよいのでしょうか? 向上させたい要素や、企業としてできる取り組みを見ていきましょう。
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自己肯定感と楽観性を高める
社員の自己肯定感と楽観性を高める施策が、日本の企業では特に重要とされています。日本の教育は世界でも高いレベルにありますが、メンタルの強化に関してはあまり重視されていないのが現状です。
自らを受け入れられない・自分自身を大切だと思えない心理状態の子供が多く、自己肯定感が低いまま大人になっている人は決して少なくありません。 自己肯定感が低かったり、物事をどうしても悲観的に考えてしまったりする日本人は多いでしょう。少し困難な状況に陥るだけで冷静に考えられなくなり、自暴自棄になってしまうケースもあります。
困難な状況に立ち向かい問題を解決できるようになるには、小手先の知識やノウハウに頼るのではなく、まずはベースとなる自己肯定感を高めなければいけません。 企業として社員のメンタルケアを考えるなら、自己肯定感を高めるための施策や、物事を楽観的に捉えて建設的な施策を考えられる人材の育成に注力する必要があります。
対人スキルを向上させる
自己肯定感が高く楽観性を持って事にあたろうとする人でも、困難な状況に1人では対応できないケースもあります。他者に助けを求めたり協力を仰いだりして、状況を改善する力もレジリエンスの一種です。
特に、エンジニアは対人関係が苦手な人も少なくありません。企業側が積極的に対人スキルを向上させる取り組みや、サポートに注力する必要があるでしょう。 対人スキルの向上に関しては、すでに多くのメソッドが確立されています。必要に応じて外部の研修も活用しながら、積極的に育てる意識を持ちましょう。
組織として個人のレジリエンスを考える
レジリエンスは外部からの衝撃やプレッシャーなどに対して、一定の範囲内に状態を留めようとする力です。そのためには、フィードバックが必要とされています。 例えば、人間の身体は周囲の温度が高くなれば、汗をかいて体温を下げる仕組みです。
逆に寒くなれば、身震いなどをして体温を少しでも上げようとする働きがあります。 人間の身体を一定の状態に保つために、ある種のフィードバックシステムが働いているのです。 社員のレジリエンスを高める場合でも、組織として社員それぞれに対する適切なフィードバックが必要です。
フィードバックの方法はさまざまですが、上司にあたる人物の助言やアドバイスは効果的でしょう。 社員がミスをした際に失敗を責めるのではなく、組織として許容した上で適切な反省を促せる環境でなければいけません。ミスを隠さず素直に打ち明けられ、次の解決策を組織として考えられる雰囲気の醸成が求められます。
レジリエンス研修を実施する
社内でレジリエンスを高めるための取り組みをするのも、もちろん有効です。ただ、外部の企業向け研修やトレーニングを利用すれば、より効率的に社員のレジリエンスを向上させられるでしょう。
近年は、さまざまな研修組織がレジリエンス向上に向けた研修を提供しています。自己肯定感を高めるトレーニングや、感情のコントロールについて学ぶ研修も増えているようです。 安定したパフォーマンスを上げ続けてもらうためにも、社員のレジリエンスを高める研修を積極的に利用しましょう。
研修は2日間のプログラムで本格的に学ぶものや、2~3時間で気軽に学べるものなど種類によって時間も内容も変わります。自社の目的に合った研修を選択しましょう。
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組織全体のレジリエンスを高めよう
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レジリエンスとはもともと物理学の用語ですが、その有益性から多くの分野で使われるようになりました。 外的な衝撃やストレスで機能を失わないレジリエンスを高めると、逆境に強くストレス下でも一定のパフォーマンスを発揮できる人材を育成できます。
ただし、社員のレジリエンスを高めるには、組織としてフォローアップの体制を構築しておかなければいけません。 個人の努力に依存せず、マネジメント層が中心となって、社員を適切なタイミングでフォローできる体制を作りましょう。企業が主体となって取り組むことで、組織全体のレジリエンスが向上します。