ジョブローテーションの効果とは。失敗しやすいケースも紹介
人材育成の手法の一つに『ジョブローテーション』があります。ジョブローテーションによって、企業や所属する社員にどのようなメリットがあるのでしょうか。ジョブローテーションの導入方法や注意点とともに解説します。
目次[非表示]
- 1.ジョブローテーションとは
- 1.1.定期的な異動でさまざまな部署を経験させる制度
- 1.2.どんな企業に有効なのか
- 2.ジョブローテーションのメリット
- 2.1.適性を見極められる
- 2.2.ブラックボックス化の防止
- 3.導入事例から見る成功ポイント
- 3.1.若手に責任ある仕事も任せる
- 3.2.多様な経験を積み経営的視点を学ぶ
- 4.ジョブローテーションの導入方法
- 4.1.対象者をリストアップ
- 4.2.目的を説明する
- 4.3.期間は短期から長期までさまざま
- 4.4.フォローアップもきちんと行う
- 5.計画的に導入をしないと失敗する
- 5.1.想定以上に時間と労力がかかる
- 5.2.退職の原因となりうる
- 6.ジョブローテーションを廃止する企業も
- 6.1.理由はスペシャリストを育てるためなど
- 6.2.注目されるタレントマネジメント
- 7.数ある手法から適切にカスタマイズを
ジョブローテーションとは
人材育成や配属にはさまざまなやり方がありますが、今回は「ジョブローテーション」について詳しく解説します。
ジョブローテーションのメリットや事例を紹介する前に、まずはジョブローテーションの概要やジョブローテーションが有効なのはどのような企業なのかを見ていきましょう。
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定期的な異動でさまざまな部署を経験させる制度
ジョブローテーションとは、社員の能力開発や適性の見極め、多角的な視点の獲得などさまざまな目的のため戦略的に配置部署を異動させることです。
単なる部署の異動だけでなく、勤務地の移動や部署内で業務内容を変更するといったこともジョブローテーションに含まれます。
ジョブローテーションは社員を育成することで企業の成長を促すことが主な目的となります。そのため、通常の人事異動や社員公募とは目的からして異なる制度です。
どんな企業に有効なのか
ジョブローテーションが有効な企業としては、さまざまな業務が一連の流れとなっている製造業などが挙げられるでしょう。
部署を異動することによって、社員は業務の一部ではなくその前後の工程についても知ることができます。結果として流れを理解したうえで業務を進めるための無駄な時間を減らせるなど、生産性のアップに結びつく可能性があります。
ほかには、幅広い知識を有することが求められるサービス業などにも向いています。
逆に、一つのプロジェクトが長期化しがちで引き継ぎが難しい業務や、高度な熟練度が求められ初心者には敷居の高い業務を行っている企業にジョブローテーションは向きません。
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ジョブローテーションのメリット
ジョブローテーションを行うメリットについて解説します。次のメリットを把握したうえで、ジョブローテーションを行うかどうかを検討しましょう。
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適性を見極められる
配属前にテストや面談を行いある程度適性を把握していたとしても、実際に働かせてみると結果がともなわないケースは多々あります。また、ある部署では成績が振るわなかった社員が、別の部署に異動した途端に思わぬ成果を出したという事例も存在します。
部署異動をして実際に別の業務にあたってもらうことで、社員が本来持っている適性を見極める判断材料にすることができるでしょう。別の部署で得たノウハウを活用し、新しいアイディアやイノベーションが生まれることもあります。
ブラックボックス化の防止
一つの部署で人材を長く固定していると、業務が属人化してしまう可能性があります。その部署で退職者や長期休職者が出たときに、人材の補填や引き継ぎが難しくなってしまうというデメリットにもつながりかねません。
ジョブローテーションは、こうしたブラックボックス化を防ぐために役立ちます。また、部署間の交流が活発になり情報共有が積極的に行われるようになることもメリットの一つです。
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導入事例から見る成功ポイント
ジョブローテーションの導入事例の中で、成功した事例に共通する取り組みをピックアップして解説します。
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若手に責任ある仕事も任せる
ジョブローテーションを行う際には、重要な仕事や役割を若手に任せることも積極的に行いましょう。
若手の責任感を育てるとともに、中堅以上の社員に若手をフォローさせることで、連帯感を生み出し従業員それぞれの成長を促すことができます。
責任のある仕事をさせることにより、エンゲージメントの向上や多角的な視点を持つことにもつながります。新人育成やマネージャーの資質を持つ人材の発掘にも役立つでしょう。
多様な経験を積み経営的視点を学ぶ
現場の経験や視点だけではなく、経営の観点から業務を俯瞰することやさまざまな部署での業務を通じて色々な人との接点を持つことは、社員の成長に欠かせない要素です。
一見無駄に思える作業でも、経営者の視点からは必要なものということもあります。自分の元いた部署で行っていた業務が別の部署できちんと機能しているか確認することで、経営面と現場どちらの視点からも業務を考えられる人材が育成できるのです。
多様な経験を積むことで、物事を柔軟に判断したり一歩引いた視点で見たりすることができるようになります。こうした経験を通じて管理職やマネージャーの適性が身につく社員も出てくるでしょう。
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ジョブローテーションの導入方法
ジョブローテーションを導入するにはどのような工程を踏めばよいのでしょうか。導入のプロセスやポイントを解説します。
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対象者をリストアップ
まずはジョブローテーションを導入する目的を決定し、その目的に沿った対象者をリストアップすることから始まります。
ジョブローテーションの目的は広義的には社員の成長ですが、社員のキャリアやスキルなどによってさらに細分化できます。
例えば、新人社員であれば適性の見極め・中堅以上の社員であれば経営的な視点を持たせ管理職を任せられるよう育成するといった分類です。
決定した目的に沿って育成したい社員をリストアップしていきましょう。このとき、社員のレベルや経歴・人材のリソースに偏りが生まれないよう配慮する必要があります。
目的を説明する
ジョブローテーションは会社からすれば人材育成というメリットが明確な反面、社員側からはその目的が見えにくい場合もあります。
社員にとっては、せっかく慣れた部署を離れてまた一から知識やスキルを獲得し人間関係を構築しなければなりません。
そのため、ジョブローテーションによる部署異動に不満を持つ社員も出てくるでしょう。異動してもらいたいときには、本人が納得するよう上司や人事部から目的を説明することが不可欠です。
目的を説明することで社員の成長に期待していることを理解してもらい、スキルアップの意欲向上やモチベーションのアップを促しましょう。
期間は短期から長期までさまざま
ジョブローテーションの期間は、数カ月から半年程度の短いスパンで行うこともあれば数年間もの長期間で行うこともあります。
期間の長さにも目的が関係しています。適性の判別が目的なら短期間で複数部署を経験できた方が効率も上がりますが、経営者視点の考え方やマネジメントスキルを身につけさせたいのであれば長いスパンでのローテーションが有効です。
あまりに異動が多いと社員を疲れさせてしまう危険性もありますので、目的を明確にしたうえで社員側にも配慮した期間を設定しましょう。
フォローアップもきちんと行う
元いた部署では優秀な社員でも、部署が変わってすぐはパフォーマンスが落ち込むこともあります。配置が変わったときに社員や部署の業績が落ちることをある程度許容し、成果を出しにくくなった社員をケアできるようなフォローアップ体制も整えましょう。
異動先の部署における教育環境の拡充や、新しく配属された社員にも仕事が回るよう指導用の人員を配備しておくなどの采配も必要です。
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計画的に導入をしないと失敗する
ジョブローテーションにはメリットばかりではなく、ここから紹介するようなデメリットやリスクもあります。マイナス面も事前に把握したうえで導入を検討しましょう。
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想定以上に時間と労力がかかる
優秀な社員であっても、異動先の部署で行う業務については新入社員と同程度の知識やスキルしか備えていないこともあります。この場合、新しい業務で十分なパフォーマンスを発揮できるよう一から教育や研修をやり直さなければなりません。
二つの部署をまたいだ場合、教育コストが2倍近くかかることもあるでしょう。ジョブローテーションによって異動した社員のパフォーマンスが落ちることを考慮し人員を配置する必要もあるため、時間や労力がかかることは把握しておきましょう。
退職の原因となりうる
社員視点では、それまでうまくいっていたはずの仕事から外され、別の部署に移った途端に評価が落ちるといった納得のいかない状況になることもあり得ます。ジョブローテーションによってモチベーションが低下し、退職してしまう社員も出てくるかもしれません。
環境の変化による心理的なストレスも無視できないものです。ジョブローテーションの導入を検討するときには、退職につながってしまうケースもあることを考慮しましょう。
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ジョブローテーションを廃止する企業も
ジョブローテーションは大企業を中心に行われてきましたが、廃止する企業も現れ始めています。その理由に注目してみましょう。
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理由はスペシャリストを育てるためなど
ジョブローテーションは多角的なスキルや経験を持つ社員を育成できる一方、一つの業務について高い熟練度を持ったスペシャリストの育成には不向きです。
例えばエンジニアには、一般的に特定分野の専門知識や熟練した技能が求められます。経営者側の視点も必要になるマネジメント職を育てる場合でなければ、エンジニア社員にジョブローテーションを適用するメリットはあまりないといえるでしょう。
スペシャリストを育てようとするとき、一つの業務に長く携われないジョブローテーションは逆効果になってしまうこともあり得ます。
注目されるタレントマネジメント
タレント(人材)に適切な教育を施し、パフォーマンスを短期間で最大化するタレントマネジメントが注目を集めています。
現在の市場は昔と比べてサイクルが短く価値観の多様化が進んだことで、長期的な人材育成があまりマッチしなくなってきています。
短期的でその業務において高いパフォーマンスを発揮する人材を育てるというタレントマネジメントのコンセプトは、ジョブローテーションと相反するものです。
タレントマネジメントを重視した結果、ジョブローテーションを廃止する企業が増えるのは自然な流れといえるでしょう。
■関連記事
数ある手法から適切にカスタマイズを
ジョブローテーションには、長期的に見て多角的視野やスキルを持った人材を育てられるというメリットがあります。時間をかけてじっくり育てた人材は会社にとって貴重な財産です。
一方で、離職の要因となる・スペシャリスト育成の障害になるといった問題が発生することもあり、ジョブローテーションを廃止する企業もあります。
ジョブローテーションは数ある社員育成方法の一つに過ぎません。重要なのは、自社の状況や市場を観察し最適な育成方法を選択することではないでしょうか。